近年の診断技術の進歩、分子生物学的手法の発達はさまざまな医学の領域に疾患概念の変革をもたらしている。かつて、臨床現場にて取り扱われていた膵嚢胞は巨大な腫瘤であり、その頻度も少なく、疾患概念、分類について問題が生じることはあまりなかったと思われる。しかし、CT、MRIなどの画像診断の進歩により、さまざまな大きさ、肉眼形態、組織像を呈する膵の嚢胞性疾患に遭遇する機会は飛躍的に増大している。それに伴い、これまで生物学的な特性が不明だった膵の腫瘍性嚢胞の経験数も増大し、治療上の問題も明らかになりつつある。とくに、膵嚢胞性腫瘍の多くを占める粘液産生膵腫瘍については日本が世界に先駆けて症例の蓄積とその解析を行い、新たな知見を見出すとともに国際分類にも大きな影響を与えている。これらをふまえ膵嚢胞性疾患、特に膵嚢胞性腫瘍の疾患概念と分類について歴史的背景や現在までの知見を述べ、今後の方向性を考察していきたい。(「はじめに」より)