癌に対する治療法には、手術療法を筆頭にいくつかの種類があるが、なかでも化学療法は局所療法および全身療法のいずれにも適応可能な方法として、様々な癌腫で広く実施されている。かつて抗癌剤はアルキル化剤が主流であったため、確かに腫瘍細胞には作用するが、DNAへの直接作用を有するために、抗癌剤による新たな癌の出現という問題を有していた。その後先人たちの努力により、新たな作用機序の、より腫瘍細胞に選択的な、より副作用の少ない抗癌剤が次々と開発され、1950年初頭に比べれば、現在のわれわれはともするとその細部まで覚えきれないほど多くの抗癌剤が選択できる環境にある。しかしながら、これら多くの抗癌剤も単剤では未だ決め手を欠いており、1980年代には既存の抗癌剤に他の薬剤を組み合わせて、その作用を強めたり、副作用を減弱させるいわゆるbiochemical modulationの考えからいろいろな組み合わせが試されたが、現在残っている組み合わせにはMTX+5-FU、CDDP+5-FUなど数えるほどしかなく、1990年代初頭には、ある意味で化学療法における新規トピックスが少なく停滞していた時期があったように考える。(「特集にあたって」より)