膝前十字靭帯損傷の治療はここ20年間に飛躍的に進歩し、トップレベルの選手でも適切な再建手術を早期に行えば、元のスポーツ競技に受傷前と同じレベルで復帰できるまでになった。しかし予防医学的観点から見ると前十字靭帯損傷の発生頻度はここ20年間増加することはあっても減少することはなく、米国で年間25万人、日本でも年間5万人以上の発生件数があるとされている。特に女子は男子に比べ2〜5倍と頻度が高く、その大半がスポーツでの非接触性の損傷である。米国では女子選手の非接触性前十字靭帯損傷の受傷メカニズムの解明と予防プログラムの確立が焦眉の急となっており、アメリカ整形外科スポーツ医学会を中心に各種の研究プロジェクトが組まれつつある。このような国際的情勢を背景に今回この特集を組むことに至った。本企画は前十字人体損傷を予防の観点からみた初めての試みである。不十分の点は多々あると思われるが、今後のスポーツ医学の進歩に期待したい。