本邦における進行性腎がんに対する分子標的薬は、2008年にソラフェニブとスニチニブの2つのチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が、そして2010年にはエベロリムスとテムシロリムスの2つのmTOR阻害薬が発売され、現在多くの施設で使用されるようになってきた。そして本年6月には新たなTKIであるアキシチニブが承認され、来年にもう一つのTKIであるパゾパニブが承認される予定である。このように、腎がん薬物治療はサイトカイン療法に代わり、分子標的薬が標準治療になったといえるだろう。しかし、これら6種の薬剤は、良好な抗腫瘍効果が期待できる反面、それぞれに異なる多彩な有害事象(AE)を呈するということが、各臨床試験だけではなく、安全性検証のために医薬品医療機器総合機構(PMDA)指導のもと実施されている全例調査によっても認められているため、使用するにあたっては十分な注意が必要である。その一方、この数年間で5,000人以上の患者に分子標的薬が広く使用され、発売当初に比べると、AEマネージメントに関して診療現場は少しずつ安定してきたように思われる。これは多くの患者を診察しなければならない担当医師だけでなく、看護師や薬剤師が外来通院によるAEマネージメントの一端を担ってきたことの表れであろう。将来的には欧米のように、各科内科医(循環器、呼吸器、内分泌、消化器など)や皮膚科医だけでなく、がん治療に卓越したがん専門薬剤師やがん看護専門看護師などによって構成されるチーム医療としての総合的なAEマネージメントとが必要となってくるに違いない。しかし残念ながら本邦では、メディカルスタッフが新規分子標的薬に関する情報や知識を習得する機会がきわめて少なく、施設によっては、がん薬物治療における役割分担が明確化されていないことも問題になっているのではないだろうか。今後も新たな分子標的薬の発売が予定されていることを考慮すると、一朝一夕にはいかないが解決していかなければならない課題である。
このような状況に鑑みて、本マニュアルは分子標的薬を使用する腎がん患者に携わる看護師の方を対象に、腎がんの病態から分子標的治療の現状、そして実際の治療経験に基づいたAEマネージメントについて編集した。これから分子標的治療を必要とする患者がますます増加すると思われ、種々の症例に遭遇する難しい状況にあるが、本マニュアルが少しでもお役に立てれば幸いである。