本書では、失語症の文献概観にかなりの項数をさき、Franz Joseph Gallの時代から現在に至るまで、どのような過程を経て徐々に知識が蓄積されてきたかを示した。同時に、失語症を離散的な皮膚の損傷ないし孤立した純粋な障害と見なすことの非妥当性が明らかにされた。これに代わるものとして、われわれは、臨床所見および研究結果に基づき、しかも近代の神経生理学や言語学の理論に合った失語症のモデルを提示した。失語症を5つの大症候群と2つの小症候群とに分け、各群のデーターと予後、症例報告などを示した。157例の失語症患者から得たデーターの分析結果(因子分析、神経学的所見との相関、73例に関する再検査のデーター、年齢の対応する50例の非失語症患者に対する検査の結果、などを含む)をも示した。最後に、失語症の治療、取扱いについての項も設けた。本書は、失語症治療の秘訣、処方、最終的真理などを求めている人々のためのものではなく、失語症の問題と真剣に取り組もうとしている研究者のすべてに対して書かれたものである。大脳損傷によってもたらされた機能変化についての研究を行うことによって、これらすべての過程について、何らかの知見を得ることができるのであり、こうした種類の研究が、臨床家にとっても、研究者にとっても不可欠であることは言うまでもない。(「序」より)