統合失調症の病像は近年とみに軽症化しているといわれる。しかし一方でこの疾患の病態解明はむしろ停滞している。それは生物学的アプローチと操作的診断基準の隆盛による精神病理学的思考の衰退に起因するものである。自己あるいは主体を自明のものとして前提するとこの病の病理に迫ることはできない。自己が自己として立ち上がってくる過程そのものに虚心に目を向けてこの自明性を解体することがまず求められる。呼称変更に伴う種々の問題点や芥川龍之介の病跡などにも触れながら現代における統合失調症の病理学の再構築を目指す意欲的な論集。