精神分析の歴史において、オットー・ランクの名は精神分析から離反していった「逸脱者」として記憶されている。精神分析の開祖フロイトにもっとも愛された弟子と言われていたランクの立場は、1924年に本書を発表したことによって一変した。ある精神分析家は本書をユングの逸脱にも一致する「不吉な発展」とまで評し、フロイトとランクの関係もまた、本書の刊行を境に緊張したものへと変わっていったのである。本書はランクが、神経症や精神病は「出生時の外傷の再現である」という壮大な試論を描き出そうとしたものである。精神分析の歴史のなかで十分に語られることのなかった試論、そしてランクが「出生外傷」と呼んだ不安の根源は、今日の精神分析に何を投げかけるのか。ランクの主著にして、今日の早期母子関係論の先駆けともいえる重要古典が、いま明らかになる。